interview

インタビュー

数えきれないくらい渡米し、バイクや車で旅をしながらモータースポーツシーンを撮り続けてきたフォトグラファー、増井貴光。
まずはbonnneville photographyの主役である彼にボンネビルのさまざまな魅力について語ってもらった。

TAKA.MASUI

知識としてのボンネビルから、
映画、レーサーを通じてBMSTへ

ボンネビルという地名やランドスピードレース自体は雑誌や実際にレースに出場していた知人もいたのでかなり以前から知っていました。
10年以上前、イエローストーンに旅した時は、フリーウェイを走りながら目の前に広がる真っ白な光景を眺めて「ここはなんだろう」と思っていました。
そしてランドスピードレースの世界を更に知るきっかけとなったのは1本の映画でした。このボンネビル・ソルトフラッツを舞台にしたアンソニー・ホプキンス主演の『世界最速のインディアン』。実在したニュージーランドのライダー、バート・マンローをモデルにした映画です。
元々デザートレースやドラッグレースなどアメリカのレースシーンが好きで何度も渡米してレースの現場に足を踏み込みましたが、2010年からはBMST(ボンネビル・モーターサイクル・スピード・トライアルズ)に参戦するヒロ小磯さんやチームメンバーと同行し、広大な塩の平原とスピードを追い求めて集まるレーサーの息使いまでを感じ、さらにランドスピードの世界に魅了されました。
小磯さんは、メカニックとしてアメリカでも高名で、常に前向きにしか物事に見ない人物です。彼らしいエピソードの一ひとつは、昨年(2016年)の時速300kmから投げ出されるアクシデントに見舞われた数日後、痛みもあって両手を固定されつつもソルトフラッツに戻り発した言葉は「仕事ができない分、その時間に新しい技術を勉強し、来年に向けてランドスピード専用のフレームを設計する」。既に彼の中では2017年のレースに向けて動き出していました。

コンディション、先着順、
400キロ超え、BMSTのあれこれ

2015年は、雨が多くソルトフラッツのコンディションが悪くスピードウィーク、BMSTなどレースは全て中止。
2016年はコンディションが良いと聞いていたものの、最高の状態とは言えないまでも前年までに比べれば天国。乾燥しすぎてタイヤのグリップが少し悪いかも、という程度の状況でした。
ソルトフラッツでベストと言われるコンディションの条件は多少の湿気があり、風が無いこと。横風はスピードが上がるほど危険な要因になります。もちろん向かい風も最高速への妨げになります。朝は無風でも地上が温まると上昇気流などの影響で風が出てくる。だから日の出と共にチームは動き出し、早朝からレースが始まります。
ここで面白いのは、出走順は列に並んだ順だということ。早く並んだ者勝ち(笑)
走る前の待ち時間は強い陽射しと白い地面からの照り返し、日陰は無く待つことが辛く、それ自体が耐久レースと思えるような過酷さがあります。2016年は多少、エントリー数が減ったようなのでその待ち時間が緩和されたように思いました。
2016年のレースで大きな話題となったのは、BMSTにとって象徴的とも言える存在の「The 7 Streamliner」が出走に必要なコンディションの条件が揃い、時速486kmを超える素晴らしいスピードで走ったことでした。
そして小磯さんが公式記録ではありませんが瞬間スピードで400kmを超えたこと。シングルエンジンのハーレーダビッドソンをベースとしたマシンとしては世界最速だと思います。これからのBMSTを大いに盛り上げてくれるはずです。

これぞアメリカンレース!参加する人たちの
ライフスタイルを映した自由な空気感

地平線まで続く真っ白な平原、ソルトフラッツという特異な場所自体が十分に魅力的です。その場所で100年続く最高速に挑むチャレンジ、それぞれのスタイルで最高速に挑戦する人たちの姿もまた大きな魅力があります。ご主人がサポートして毎年記録を更新している87歳の女性や、お父さん、お母さんだけでなくティーンエイジャーの娘もエントリーしている家族など、ライフスタイルとしてモータースポーツを楽しんでいる自由な空気感が好きです。他のアメリカのレースでもそうですが、過酷とも言える環境の中で実際には辛いこともあるのだろうけれど、まずは楽しんでやろうという気概が良いですよね。

アメリカにおける
カスタムマシンのトレンド

カスタムマシンという括りでいうとランドスピードレース用のマシンはスピードを出すことに特化 したマシンとホットロッド的なマシンが多いです。流行りとは違うところにあります。最近ではス ピードウイークにエントリーしているチャボエンジニアリングのマシンやキヨズガレージのCB750のようにカスタムとしても素晴らしいバイクも増えています。一般的なカスタムのトレンドはカフェレーサーやスクランブラーではないでしょうか。

レースも含めて自然を守る
「SAVE THE SALT」について

「SAVE THE SALT」は、年々減少しているソルトフラッツの塩を提議している自然保護団体です。自然保護だからレースに反対ということでは無く100年の歴史のあるレースも含めて保護しようとしています。塩を採取している業者や国、州に対してのアクションをしています。

アメリカ、レース、
写真を撮り続けて今、思うこと

アメリカのモータースポーツは、ローカルに根ざしたメディアが毎日レースやそこに集まる人々の楽しそうな様子を伝えています。この国には「モータースポーツ」とは「いつもそばにあるもの」、そして趣味や人生を彩るもので、仲間や家族で明るく飛び切り楽しんでいるというムードがあります。
BMSTもアメリカだけでなく様々な国から毎年チームや参加者が集い、年1回の再会を喜ぶフレンドリーな空気感があります。
初めて訪ねた2010年から数年はバート・マンローがロサンゼルスから聖地を目指したルートを選びボンネビルに入りました。2014年から小磯さんのチームとラスベガスから同行しています。7年間撮り続けることで見届けられたシーンや様々なドラマがありました。
15000年の時間をかけて自然が創り出したボンネビルの塩の平原、その大自然の中でシビアなコンディションと向き合い最高速を駆け抜けるライダー達。実際にバイクに乗っているから捉えられる視点で躍動感ある写真を残し、次の世代に手渡していければと思っています。

2017年は新しくエントリーする日本人も増え、ますます目が離せないBMST。
そして、2008年から参戦し、エントリーするクラスで次々と最高速を更新。現在クラスはハーレーのエンジンをベースとした「3000-APS-PBG」にエントリー。自らがランドスピード用にチューニングしたバイクで記録に挑み続ける小磯さん。常に新たなチャレンジをし続ける彼がどこまでいくのか見届けたい。彼だけでなく其々のレコードに挑む人たちの姿を撮影していきたい。そんな思いと共にあの真っ白な聖地に向かう準備を始める自分がいるのです。